「うちのチームは会議で意見が出ない」「ミスが起きたとき、報告が遅れる」。こうした悩みの根底にあるのは、スキルの不足ではなく「心理的安全性の欠如」かもしれません。
心理的安全性とは、ハーバード大学のエイミー・エドモンドソン教授が提唱した概念で、**「対人関係においてリスクのある行動をとっても、このチームでは安全であるという共通の信条」**を指します。本記事では、この目に見えない「空気」をいかにして数値化し、改善し、成果へとつなげるかを徹底解説します。
第1章:なぜ、いま「心理的安全性」が組織の成否を分けるのか

変化が激しく、正解のないVUCA(ブーカ)の時代において、トップダウンの指示だけで動く組織は限界を迎えています。
1. Googleが導き出した「成功の唯一解」
Googleは、数百万ドルを投じた大規模調査「プロジェクト・アリストテレス」において、効果的なチームの条件を科学的に分析しました。当初、彼らは「最高のエンジニアを集めること」が正解だと信じていました。しかし、結論は驚くべきものでした。
**「誰がメンバーであるか」よりも「チームがどのように協力しているか」**が重要であり、その土台にあるのが「心理的安全性」だったのです。
2. 「学習」と「イノベーション」を加速させる
心理的安全性が高いチームでは、以下の「4つの不安」が解消されます。
- 無知だと思われる不安: 基礎的な質問ができる。
- 無能だと思われる不安: ミスを即座に報告できる。
- 邪魔だと思われる不安: 自分のアイデアを提案できる。
- ネガティブだと思われる不安: 懸念点を指摘できる。
これらの不安が消えることで、情報の隠蔽がなくなり、組織全体での「学習スピード」が最大化されます。
第2章:心理的安全性を「見える化」する:エドモンドソン教授の7つの尺度
「なんとなく風通しが良い」という主観は、マネジメントにおいて非常に危険です。客観的な指標で現在地を把握しましょう。
1. エドモンドソン教授による7つの質問項目
以下の7項目に対し、メンバーが1(全くそう思わない)〜7(非常にそう思う)のスケールで回答します。
| No. | 質問項目 | 尺度の意味 |
| 1 | チームでミスをすると、たいてい非難される(※) | 失敗への寛容さ |
| 2 | 課題や難しい問題を指摘し合える | 対立の健全性 |
| 3 | 自分と違うという理由で他者を拒絶することがある(※) | 多様性の尊重 |
| 4 | リスクのある行動をとっても安全である | 挑戦のしやすさ |
| 5 | 他のメンバーに助けを求めるのが難しい(※) | 相互支援 |
| 6 | 自分の仕事を貶めるような行動を誰もとらない | 信頼関係 |
| 7 | 自分のスキルや才能が尊重され、活かされている | 自己有用感 |
※1, 3, 5は「逆転項目」であり、否定的な回答ほど心理的安全性が高いと判断します。
2. スコアの分析:平均値よりも「ばらつき」を見よ
全体の平均点が高いからといって安心はできません。注目すべきは**スコアの「標準偏差(ばらつき)」**です。
- 平均が高く、ばらつきが小さい: チーム全体が高いレベルで安定している。
- 平均は高いが、ばらつきが大きい: 特定のメンバーが疎外感を感じている、あるいは特定のサブグループが孤立している可能性があります。
第3章:心理的安全性の「現在地」を測定する3つの手法
組織の規模や目的に合わせ、適切な測定手法を組み合わせます。
1. 網羅的アンケート(組織サーベイ)
年に1〜2回、詳細な項目で実施します。
- メリット: 部署間の比較や、残業時間・離職率などの相関を分析できる。
- デメリット: 測定から結果共有までのタイムラグが大きく、日常的な改善には不向き。
2. パルスサーベイ(定点観測)
月に1回、あるいは週に1回、3問程度の短い質問を繰り返します。
- メリット: プロジェクトの山場や繁忙期による「空気の変化」をリアルタイムで察知できる。
- デメリット: 頻度が高すぎると回答が形骸化する。
3. 定性把握:1on1と「発言比率」の観察
数値化できない部分は、リーダーの観察が重要です。
- 会話のターン交代(Turn-taking): 特定の人物だけが話していないか。メンバー全員に均等に発言の機会が回っているか。
- 1on1での「弱みの開示」: 部下が「実は困っています」「わかりません」と自己開示できているか。
第4章:測定結果を「文化」に変える4ステップのアクション
データを取って終わり、では心理的安全性を下げる原因(「結局何も変わらない」という無力感)になります。
ステップ1:結果の「無選別共有」
測定結果は、良いものも悪いものもチーム全員に公開します。
ポイント: リーダーが「この結果を見て、自分の関わり方に反省点があると感じた」と自己開示(弱みの見せ方)を行うことで、メンバーも本音で話しやすくなります。
ステップ2:共通言語化のワークショップ
7つの項目のうち、どこに課題があるかを話し合います。
- 「なぜ質問1(非難される)のスコアが低いのか?」
- 「どういう状況なら、もっと助けを求めやすくなるか?」
ステップ3:グラウンドルールの設定
対話を通じて、チーム独自の「行動規範」を作ります。
- 「会議ではまず肯定から入る」
- 「Slackのスタンプで反応を可視化する」
- 「わからない、と言った人を称賛する」
ステップ4:リーダーによる「心理的安全な振る舞い」のモデル化
リーダーの行動は、心理的安全性の最大の影響因子です。
- 好奇心を持って聞く: 「それ、どういうこと?もっと教えて」
- 無知を認める: 「ごめん、そこは私の不勉強でわからない。教えてくれる?」
- 失敗を称える: 「ナイス・トライ!この失敗から何を学べるだろう?」
第5章:心理的安全性「2つの誤解」に注意せよ

心理的安全性を追求する上で、多くのリーダーが陥る罠があります。
誤解1:「アットホームでぬるい職場」にすること
心理的安全性が高く、かつ**「責任(アカウンタビリティ)」が低い状態は、単なる「コンフォート・ゾーン(ぬるま湯)」です。 目指すべきは、心理的安全性も責任も高い「ラーニング・ゾーン(学習領域)」**です。ここでは、高い目標に対して率直にぶつかり合うことが可能になります。
誤解2:「何を言っても許される」場所ではない
無礼な言動や、努力を怠ることまで許容してはいけません。心理的安全性とは、あくまで**「成果のために必要なこと」を率直に言える環境**を指します。
第6章:おすすめの測定・改善支援ツール3選
手作業での集計は負荷が大きいため、ITツールの活用を推奨します。
- Wevox(ウィボックス): 学術的知見に基づき、エンゲージメントと心理的安全性を手軽に可視化。改善案の提案機能が充実しています。
- Geppo(ゲッポウ): リクルートのノウハウが詰まったパルスサーベイ。3つの質問でコンディションの変化を素早くキャッチ。
- ラフールサーベイ: メンタルヘルスと組織状態を同時に測定。「健康経営」を目指す組織に適しています。
まとめ:心理的安全性は「終わりのないプロセス」
心理的安全性を「見える化」することは、一度きりの健康診断ではありません。それは、チームが成長し続けるための「航海図」を持つことです。
数値が下がったとき、それを「誰かのせい」にするのではなく、「私たちのシステムに何が起きているのか?」と問いかけてください。見える化された指標を共通言語に、対話を重ねる。そのプロセス自体が、チームの信頼関係をより強固なものにしていくはずです。
明日からの第一歩: まずは次回の会議の冒頭で、「最近、何かうまくいかなかったことや、小さな失敗はあった?そこから学んだことをシェアし合おう」と、リーダーであるあなたから切り出してみてください。その一歩が、チームを変える大きなうねりになります。

